大阪大学

大阪大学上田研究室

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研究概要

吸着と微小空間の科学

日常生活で使用する様々な物質は天文学的な数(1023個)の分子が集まった分子集合体で、これは一般に「バルク」と呼ばれます。普段、私たちの身の回りに存在する物質が示す性質は、この「バルク」としての性質です。

例えば、コップの中の水は常圧では0℃で凍ります。これは水のバルクとしての性質です。これをミクロの目で観測すると、ほとんどの水分子はまわりの他の水分子と相互作用しています。コップの壁面付近に存在する水分子は、コップを構成するシリカガラス(SiO2)と相互作用していますが、その分子の割合はコップの中の水分子に比べると無視できます。

それでは、この水の体積(つまりコップの大きさ)を小さくしていくとどうでしょうか?水分子同士で相互作用している割合が減り、壁面と相互作用している水分子の割合が徐々に増加していきます。空間の大きさがマイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)程度になると、壁面と相互作用している水分子の性質が系全体の性質に現れるようになります。具体的には、このような微小空間に閉じ込められた水は、もはや0℃では凍らず、-20~-30℃まで液体の水のままで存在します。さらに空間が小さくなり、ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)程度になると、もはや私たちが知っている水とはまったく異なった構造や性質を示します。つまり、液体や固体といったバルクの概念は通用しなくなり、水分子がらせん状や直線状に並んだ特異な構造が観測されます。

吸着化学研究室では、このような微小空間に閉じ込められた分子集団の構造や性質(熱的、電気的、磁気的 性質)がどのようなメカニズムで現れるのかを分子の動き(分子運動)を通して調べています。また、“空間”によって分子の並び方をコントロールすること で、プロトン伝導、電子伝導、1次元スピン鎖などの新しい機能を持った材料の創製も目指しています。

核磁気共鳴(NMR)

原子核が持っている磁石としての性質は、磁場中でラジオ波と相互作用をします。この応答を調べるのが核磁気共鳴(NMR)分光法です。プローブ光であるラジオ波は、波長が長く低エネルギーのため、固体による散乱が小さく、固体内部に存在する吸着分子にまで到達し相互作用でき、さまざまな構造情報を引き出します。そのため、NMRは自然科学の研究から医学利用(MRI)まで幅広い分野で用いられている分析手法のひとつです。NMRは、構造情報をはじめ、分子の運動や空間分布など、たいへん多くの情報を提供します。1秒間に1回という遅い運動から、1秒間に1015回という非常に速い運動まで、幅広いタイムスケールの分子運動を調べることができます。

主な研究テーマ

現在は、以下のようなテーマを中心とした基礎研究を行っています。

  • ナノ空間が誘起するゲスト分子の相転移現象に関する研究
  • ナノ空間を用いた1次元水素結合鎖の構築とプロトン輸送に関する研究
  • ナノ空間における流体の凝固点降下と分子間相互作用に関する研究
  • ナノ空間電解質溶液のイオンの動的水和構造に関する研究
  • NMRを用いたナノ制約分子の新しい観測法の開発とその応用研究

最近の研究

NMRで見るナノ制約分子
-ナノ空間で発現する吸着分子集団の相変化-

結晶性が高く極めて規則的かつ周期的な構造を有する多孔性配位高分子では、吸着分子がその細孔構造を反映した超格子を形成すると考えられます。つまり、吸着分子が細孔に留まって規則的に配列した状態(擬固体)と細孔間を自由に動き回る状態(擬液体)を考えることができ、これら状態間の相変化の発現が期待できます。このような細孔内での吸着分子の状態変化は、温度によって物性をオン-オフできる温度感応型機能性材料への展開も期待できます。私たちは、IRMOF-1([Zn4O(BDC)3]n; BDC = O2CC6H4CO2)と呼ばれる多孔性配位高分子において、吸着分子が細孔内で相変化を示すことを世界で初めて見出しました。

参考文献
  • T. Ueda* et al., Chem. Phys. Lett., 2007, 443(4-6), 293−297.
  • T. Ueda* et al., J. Phys. Chem. C, 2012, 116, 1012−1019.
  • K. Takakura et al., Phys. Chem. Chem. Phys., 2013, 15, 279−290.
  • T. Ushimi et al., Chem. Lett., 2014, 43(4), 423−425.

物理吸着のミクロダイナミクス
-細孔径より大きな分子の吸着機構の解明-

多孔性配位高分子の一種で、2-メチルイミダゾレートアニオン(MeIm-)をリンカーとするZeolitic Imidazolate Frameworks-8(ZIF-8) [Zn(MeIm)2]nは、直径11.6 Åのミクロ孔が8個の6員環開口部(直径3.4 Å)で連結されたソーダライト構造をもちます。この物質の興味深いところは、X線構造解析で求められた開口径3.4 Åよりもずっと大きい分子の吸着が可能な点で、これにはリンカー部の柔軟性が深く関係していると考えられます。我々は、ZIF-8の2-メチルイミダゾレート環の分子運動を固体NMRで調べることによって、2-メチルイミダゾレート環の大振幅フリップ運動が細孔径を過渡的に拡張し、嵩高い分子の吸着を可能にしていることを明らかにしました。この機構は、これまでのゼオライトや活性炭のような剛直な骨格構造を有する多孔体にはない新しい吸着機構として、多くの多孔性配位高分子の吸着を説明できると考えられます。

参考文献
  • T. Ueda* et al., Adsorption, 2017, 23(6), 887–901.
  • T. Ueda* et al., J. Phys. Chem. C, 2019, 123(45), 27542–27553.

Laboratory for Molecular Adsorption

Department of Chemistry, Graduate School of Science, Osaka University

1-1 Machikaneyama-cho, Toyonaka 560-0043

Copyright © Takahiro Ueda Lab.
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